「聖書の学びの会」2023年2月8日
法亢聖親牧師からのメッセージ
奨励題 「知恵の力と限界」 伝道の書9章11節~18節
成熟とは複雑になることだ、とある思想家は語っていました。伝道者も同様の理解をもって成熟を理解しています。
足の速い人が競争に勝ち、勇士が戦いで勝つ、知恵ある人はパンにありつき、悟りある人が富を獲得し、知識のある人は人々から愛を獲得する。人はその能力に応じて分け前にあずかるのが当然だ、と多くの人は考えます。ところが、現実はそれほど単純ではありません。世界記録保持者がオリンピックで勝つとは限らず、最強の軍隊が戦いで勝つとは限りません。知恵があるのに、明日のパンに困る人は多くおり、愚か者が富を獲得し、知恵ある者が人々から嫌悪の目で見られるのです。時代やタイミングが合っていない場合、不遇な結果を迎えることが多々あります(11節)。
最悪の時に最悪の場所にいた、それだけの理由で災いに直面することもあります。魚が網にかかり、鳥がわなにかかるのは、彼らが愚かだからではなく、タイミングが悪かったからです。私たちが思った通りに物事は進みません(12節)。このような複雑な世界に向き合う人となることが、知恵における成熟です。
しかし、成熟した知者にも限界があります。伝道者は、一つのたとえ話を用いてそのことを描いています。何もないような小さな町を大王が攻め、大きな土塁を築き、攻め落とそうとしました。圧倒的に不利な状況下で、その町に住む、一人の貧しい知恵ある人の知恵によって、町は大王の手から救い出されました。知恵があれば、小さな存在であっても、大きな存在に勝つ道が開かれます。ところが、町の人々はその貧しい人のことをすぐに忘れてしまいました。世界に広がる健忘症のゆえです(1:1)。そのために、町を救った知恵者のことばは、その後、もはや聞かれないのです。忘れ去られてしまうならば、知恵も無力です(13~16節)。
それでもなお、知恵には力があります。人々は知恵ある者の静かなことばには耳を傾けますが、支配者が絶叫したとしても、それが愚か者の間で語られた場合、聞かれることはありません。ですから、知恵は武器に勝ります。大王の軍隊に囲まれた小さな町の例が示すとおりです。しかし、「一人の罪びとは多くの良いことを打ち壊す」(18節)のです。10章1節が語ることと同様に、力ある知恵も脆弱性(ぜいじゃくせい)を抱えています。
複雑な世界に複雑に向き合う成熟を知恵は求めています。知恵を含めたあらゆるものは、力と脆弱性を同時に抱えているからです。
このような複雑な世界は、天地を創造し、今もそれを支えている神さまの支配下にあります。ですから、私たちの成熟には全能の神さまへの信頼と自らの限界を認める謙遜が常に求められています。主をより深く信頼し、人の限界を的確に理解し続ける歩みこそ、伝道者が私たちに求めていることです。